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平成29年度生産局長賞受賞事例

平成29年度生産局長賞受賞事例

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     ご紹介するヒートポンプの数値は定格暖房能力です。

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【都道府県】 宮城県 
【作物名】 野菜(トマト:桃太郎はるか,桃太郎J )
【称】 地下水熱利用ヒートポンプ有効利用によるコスト削減と寒冷地におけるトマトの安定生産の実践
【経営概要】
○立地…宮城県内陸北部の栗原地域は、日射量が少なくトマト栽培の北限の地と言われており、最低気温平均値が-5℃以下まで冷え込む。栗駒山系の地下水が豊富で、水温は年間を通して16℃程度。
○経営規模と生産量…ハウス 20、736 ㎡、年間生産量 492t、 就労人員:30名。
○特色…ダッチライト型ガラス温室での冬春作型(長期多段の年作型)。7 月定植で9 月~6 月まで収穫。コンピューター環境制御、養液回収式ロックウール養液栽培、日射比例制御方式。選果場併設による栽培から出荷までの一貫生産。
【電化技術の導入・実践概要】
(1) 養液回収式ロックウール養液栽培の点滴かん水、温湯配管暖房の重油ボイラー(5 基)、循環扇(124 基)、天窓、遮光カーテン、炭酸ガス発生装置(1 基)等の電気設備を使用。温度、日射量や炭酸ガス濃度を日射比例制御方式によるコンピューターで環境制御。また、非散布型製剤による防除や排液を紫外線で殺菌してリサイクルする環境配慮型の栽培方法を実践。
(2) 平成25 年、暖房経費の節減、経営体質強化のため農林水産省の「燃油価格高騰緊急対策事業」を活用して、寒冷地でも高効率かつ安定した運転のできる地下水熱源ヒートポンプシステムを導入。平成26 年1 月から、温湯配管暖房とのハイブリッド暖房を開始。
(3) ヒートポンプ(30.4kW/台、以下HPと表示) は40 台を集中制御しており、ハウスを8 つのエリアに分け、エリアごとに温度管理できるように5 台一組で運転制御している。
【電化による経営・技術の改善】
(1) 地下水熱源HPは、吹出し温度が外気温に左右されることなく一定で、常に安定した熱量が供給されるため、温度の変動が小さく、重油暖房機の稼動も空気熱源HPに比べて少ない。
(2) 温湯暖房(重油)と温風暖房(HP)という異なる暖房方式の組み合わせで、ハウス内温度環境の改善および消費エネルギーの削減を図っている。また、温風暖房による温度ムラを少なくするためにHPの風向フードの形状検討や循環扇の見直し等も行っている
(3) HP導入後(平成26年度・27年度)は、導入前(24年度)に比べてそれぞれ34%、46%のランニングコストダウン。収量は475t(平成24年度)に比べ484t(27年度)、492t(28年度)に増加。
(4)夏定植後の高温対策として、HP を冷房にも利用するために、HP 制御システムの改造を行うとともに、実際に冷房運転を行って効果的な運転方法についてのノウハウを収集し、平成30 年の夏から冷房利用を開始する。

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【都道府県名】 大分 
【作物名】 花き(輪菊:フローラル優花、晃花の富士)
【表彰技術】 施設輪菊栽培における電照設備へのLED電球の導入によるコスト削減とハウス内の自動環境制御による省力
      化技術の確立

【概要】
○立地…国東市武蔵町は大分県国東半島の東側に位置し、比較的温暖な気候で雨が少なく、輪菊の栽培には適した地域。
○経営規模と生産量…作付面積:95a(鉄骨:77a、ビニール:18a)、就労人員:8名、生産量:年間約100万本
○特色…冬場の生育温度が低い品種を導入し、暖房コストの低減を図る一方、同一施設内で年間3作栽培し、施設の回転率を上げている。採光性、換気性に優れたフェンロー型鉄骨ハウスに、散乱光により影が出にくい被覆材(エフクリーン・ナシジ)を使用し、少ない光熱費で良好なハウス内環境を作っている。杵築広域部会で計画的に生産し契約販売を行うことにより、年間出荷量の4割は一定価格の取引となっている。
【電化技術の導入・実践概要】
(1)平成4年、ビニールハウス(40a)で輪菊の栽培を開始。電照用白熱電球、重油加温機、循環扇、選花機などを導入。以後、ハウス内自動温度制御(重油加温機、巻上換気装置を制御)や電球型蛍光灯などを順次導入。
(2) 平成24年、規模の拡大(鉄骨ハウス77aを建設)に伴い、電力使用量が大幅に少ないLED電球を導入。また、省力化を図るため、ハウス内の自動環境制御(ハウス内温度による重油加温機と循環扇の連動制御、天窓の開閉制御、頭上潅水同時施肥システム)や自動結束機能付選花機、自走防除機等を導入。さらに、冷蔵保管室を設置し、定植時期や出荷時期の調整を容易にするとともに、品質の維持や向上を図った。
(3) 主な電化設備は、白熱球 75W 60灯、電球型蛍光灯 23W 200灯、農業用LED電球9W 940灯、冷蔵室 3.1kW 2組、動力噴霧機 5.5kW 2台、循環扇38台。
【電化による経営・技術の改善】
(1) 輪菊に対しての実証データが少なかったLED電球は、白熱電球や電球型蛍光灯に比べ大幅に電力使用量を削減できることから、県内で初めて採用した。
(2) ハウス内の自動環境制御により、ハウス内の温度を一定に保つことができ、被覆材の散乱光と合わせて輪菊の生育に適した環境を作り出している。また、LED電球による開花時期の調節も順調で、狙った収穫時期に安定して収穫でき、導入後の年間生産量は導入前35万本(40a)に対し100万本(95a)、10aあたりで比較して約1.2倍となっている。
(3) 苗の冷蔵保管により定植時期を調整することができ、必要な量を安定して栽培できるとともに、出荷時期に冷蔵保管することで品質を維持したまま出荷調整ができる。
(4) 電照用電力の消費エネルギーは、作付面積が増えたもののLED電球の導入により、一次エネルギー量、温室効果ガス(CO2)排出量ともに、35%(10a当り:73%)の削減量となっている。

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【都道府県名】 沖縄 
【作物名】 野菜(ミニトマト:フルティカ)
【表彰技術】 ヒートポンプを活用した長期夜間冷房による沖縄県での高糖度ミニトマト栽培の収穫期間拡大と生産の安定化

【概要】
○立地…沖縄県南部地区の土壌は特有のジャーガル(アルカリ性土壌)の為、一部の野菜を除いては微酸性から弱酸性を好む野菜の特性・特徴を引き出す事が難しいのが現状である。但し、沖縄地方は亜熱帯気候の為、真冬でも平均温度が摂氏14度を下回る事は稀である。又、真夏に於いては平均温度が30℃を越える事も稀である。しかし真夏の太陽光は強力である為、施設園芸(ハウス栽培)では光量及び熱量を制御する事で真夏の野菜栽培に大きな可能性を秘めている。
○経営規模と生産量…作付面積:20a(10aのH鋼☓2棟)、就労人員:11名、生産量:14t/年。
○特色…栽培方法はアイメックフィルムを使用した水耕栽培システムにクボタの環境制御システムを融合させた高糖度トマトの栽培方法である。10a当たり3740本を超える密植栽培での品質管理を環境制御技術が支えている。通常沖縄県の土耕栽培では難しい、高糖度トマトの栽培生産と、収穫時期の延長の実証試験に取組んでいる。
【電化技術の導入・実践概要】
(1) 沖縄県でのミニトマト(トマト)のワンシーズンは10~6月で、作付体系は9月中旬以降、台風の襲来が無くなる時期を考慮し進めている。最盛期は1月~4月でワンシーズンの55%を占め、6月で略出荷は終わる。この様な短期決戦型の作付体系となる理由は、ビニルハウス内を環境制御技術を応用しトマトの生育環境にコントロールする技術が確立されていない事が大きな要因である。
(2) この課題を各種の電気設備をそれぞれの季節時期に活用しトマトの生育環境範囲に維持する事で、通常の栽培では出荷できない7月末までの出荷を実現した。
(3)主な電化設備はハウス1棟あたり、ヒートポンプ3.37kW 5台、循環扇87W 12台、循環扇細霧用動噴2.2kW 1台、妻窓換気扇750W 2台、天窓、遮光カーテン等開閉モータ計7台。
【電化による経営・技術の改善】
(1) 春先から秋口までの期間、夜温が20℃を越える時期にハウス内温度を夕方から早朝の間、ヒートポンプで冷房、15℃前後に保つ事で、沖縄県でも高糖度トマト生産を可能としている。
(2) 夏場の日中に於いては、ハウス内は環境制御無しの場合、天窓、側窓等を全開にしても、50℃を越える高温状態になる。この様な条件下でも、ハウス内の内張遮光カーテン(55%カット)を全閉し太陽熱源の遮断、循環扇の細霧装置を使用し気化熱で温度上昇の抑制と湿度の維持を図り、妻窓換気扇等を稼働させ、ビニル天井と内張遮光カーテン間の高温空気を外部へ強制換気と同時に外部空気の取り入れを行いハウス天井内部の温度上昇を抑え、栽培と生産を実現した。
(3) 平成29年4月中旬から7月末までの4ヶ月間ハウス内設備を稼働(昼間の温度管理や夜間18時~翌朝7時まで夜冷)させるのに使用した全ての電力量は約3万kWh(10aのみの運用)であった。
(4)循環扇等の常時稼働による湿度管理で、葉カビ病やうどんこ病等はほとんど発生しない。