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平成30年度生産局長賞受賞事例

平成30年度生産局長賞受賞事例

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     また、生産者様への直接のお問い合わせは、ご遠慮ください。

     ご紹介するヒートポンプの数値は定格暖房能力です。

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【都道府県】 北海道
【作物名】 野菜(ホウレンソウ、レタス、ホワイトセロリ、ブロッコリー、キュウリ、トマト他、計24種)
【表彰技術】 地中熱源ヒートポンプを含む複合環境制御システムを用いたハウス栽培の運営について
【経営概要】

1.農業経営の概要
(1)立地条件
七飯町東大沼地域は北海道最南端部に位置し、道内では最も温暖な地域にあたる。海抜は100mを超え高原状の地形のために真夏でも気温が30℃を超えることはほとんどないが、冬は最低気温が-10℃を下回る日もしばしば出現する。
(2)経営規模
作付面積:1,000坪(ハウス2棟計)、就労人員:31名、生産量:80t/年(各品目合計値)


2.農業電化技術の導入・実践の概要
(1)導入実践の経緯
2015年3月、現農場の近隣地区で試験的にデータを蓄積していたことと、商業ベースの実証ハウスとして稼動させ持続可能な施設園芸の普及に貢献したいとの思いから、現農場を立ち上げた。
(2)導入技術の新規性
・日射量、温度等の各センサ情報の活用による育成条件の最適化。
・局所気象情報の取り込みによる補光の先行制御、1時間前の降雨予想による天蓋開閉制御。
・温泉熱を含むハイブリッド熱源による暖冷房の省エネ性・環境性の追求。
・養液の温度変化を防ぐため、流路に定温エアをエアレーションし、養液温度を維持。
・同一棟内での複数品目同時栽培。
・品目によらず1種類の養液を使用。
・養液の循環利用による無廃液化。
(3)導入技術のシステム
・冷暖房に化石燃料を使用せず自然エネルギーをできるだけ効率よく使用する育成環境創出のため、温泉熱、地中熱、土中熱、井戸水を組み合わせた温度管理システムを用いている。
・温泉熱は45℃ほどで使用することができ、それを熱回収しハウス内の冬期主暖房に利用。
・地中熱はヒートポンプによりエアレーション用エアの温度調整に利用。
・土中熱はアースチューブによる野菜近傍の温度調節に利用。
・井戸水は野菜のスポットクーラーに利用。
・冷暖房はハウス内の温度センサで18℃~22℃の幅で、熱交換室で冷暖房を自動切換えしている。春、秋には一日の中で冷暖房の切替えが何回もあり、設備に負担がかかるのを避けるため4度の幅を持たせている。
・養液温度は20℃で制御することが理想であり、ベッド内の出口でエアレーションエア温度が  20℃になるよう、エアレーションルーム内の空気を地中熱ヒートポンプにて5℃~10℃でコントロールしている。養液温度は通年で20℃±1度をキープしている。

・局所気象予報等の情報を活用した管理方策を用いて、雨滴混入回避のための天蓋開閉制御や、週間予測による照射光量を計画するなど最適な環境作りを行っている。
・生産管理システムを独自開発し、定植からTAGで成長を管理し、適切な収穫時期と出荷数を自動管理している。

 

3.農業電化による経営・技術の改善
(1)生産性の向上
・開場当初はLEDを設置していなかったが、LED補光と気象予測を組み合わせた日射量補完によって収量を2倍にすることができた。今夏からは、四季での日照量の差があまりに大きいためにバラついていた生産量・質をさらに通年で安定させるため、従来、日射量によって増減光させ、光量を一定にするように制御していたところを、光量の増減だけではなく照射時間の増減という時間軸を加えた制御管理方式とした。
・雰囲気、養液の温度管理およびCO2補完等の独自項目の適正管理基準設定により、単収量の増加および高品質化を図っている。
・生産管理システムを独自開発し、定植からTAGで成長を管理し、省力化を図りながら適切な収穫時期と収量を自動管理している。
(2)品質の向上
・土壌・農薬等の排除による高品質化およびえぐみの無い食味の創出。
・栄養価(ビタミンほか)の増加による品質の向上。
・雑菌減少等による鮮度保持期間の延長(通常の3倍程度)。
・生産管理システムによる収穫の適正化。
(3)農作業の効率化
・2018年5月、GLOBAL G.A.Pを分類15品目について一挙取得し、基準に基づいた生産管理による労働時間の短縮、作業環境の改善を実施している。
(4)生産コストの改善
・自然エネルギー、再生可能エネルギーを優先利用しており、30aの栽培面積で、従来型のエアコン+灯油のシステムを採用した場合と比べて光熱費は年間で約46%削減している。
(5)環境保全型農業の実践
・養液の循環・再利用(成分添加)による無廃液化を実践。また、無農薬である。
・温泉熱の利用による昇温エネルギーの省エネ(温熱、回収熱量は6,000GJ/年)、地中熱ヒートポンプの導入による省エネ(温・冷熱)、土中熱の利用による温度管理エネルギーの低減(温・冷熱)、地下水冷熱による冷房エネルギーの低減と、これらのシステムの導入により、30aの栽培面積で、従来型のエアコン+灯油のシステムを採用した場合と比較し、約57%の省エネルギーを達成、温室効果ガス(CO2)では約59%削減している。

 

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【都道府県名】 大阪 
【作物名】野菜(イチゴ:章姫)
【表彰技術】 IoT技術を活かした観光イチゴ園の経営

1.農業経営の概要
(1)立地条件
八尾市は、大阪府中央部の東よりに位置し、西を大阪市、東は奈良県に接している。八尾市内には、JR、私鉄、地下鉄の各路線が通っており、大阪市内中心部からの所要時間は、いずれの路線も30分程度と、アクセスは良好である。
八尾市は、年平均気温が17.8℃、年間降水量が1,354mmであり、温暖で、年間を通じて農業生産が可能な地域である。近年は、都市化の影響などにより、農地や担い手の減少が続いているが、消費地に近いというメリットを活かし、主に市内東部で、えだまめや軟弱野菜、花き等の集約型農業が営まれている。
(2)経営規模
栽培面積 25a(鉄骨ハウス7a、パイプハウス18a)
就労人員 7人(うち常時雇用1人、臨時雇用3人)
年間イチゴ狩り来園者数 約3,000人
(3)技術、経営等の特色
冬場は、電照栽培や炭酸ガス施用を行うことでイチゴの生育を促進し、毎年1月上旬から、イチゴ狩りの受入を開始している。生産したイチゴは、都市農業の強みを活かし、全量を観光イチゴ狩りと農園前の自家直売所で販売しており、市場出荷は行っていない。
      
2.農業電化技術の導入・実践の概要
(1)導入実践の経緯
平成19年~20年にハウスを建設して、イチゴの高設栽培のシステムと加温機、自動換気装置などを導入し、栽培をイチゴに特化するとともに、観光イチゴ狩りを開始した。
(2)導入技術の新規性
・八尾市内では最も早くイチゴの高設栽培システムを導入して、観光イチゴ狩りに取り組んだ。また、Webでの情報発信を積極的に行うとともに、イチゴ狩りの予約をWeb上で受け付けるようにするなど、来園者の利便性向上にも取り組んだことで、毎年安定して収益を確保している。
・これまでに取り組んできた情報発信や、英語版ホームページを作成したこともあり、現在では、イチゴ狩り来園客の約2割を外国人客が占めており、その数は年々増加している。
 

3.農業電化による経営・技術の改善
(1)生産性の向上
・給液や天窓・側窓の自動開閉システム導入により、手動管理していた頃に比べて、より精密な栽培管理が可能になった。
・冬場は、電照栽培や炭酸ガス施用を行うことでイチゴの生育を促進し、毎年1月上旬から、イチゴ狩りの受入を開始している。電照時間は18:00~20:00、期間は11月~2月。
・炭酸ガス施用は、8:00~17:00(12:00~13:00除く)の各1時間ごとに15分間実施している。
(2)品質の向上
給液や自動開閉システム等の導入により、生育のバラツキが解消し、品質が均一化した。
(3)農作業の効率化
・高設栽培システムや自動換気システムを導入したことで、土耕栽培に比べて栽培管理に要する労働時間を約1割削減することができた。その結果、ほ場衛生や情報発信などに、より注力することが可能になった。
・園内にWi-Fi設備を導入したことにより、園内での事務作業も可能になり、イチゴ狩りの予約受付業務などを効率化できるようになった。
(4)環境保全型農業の実践
 栽培管理の省力化を実現したことにより、ほ場内の衛生管理も徹底できている。その結果、病害虫の発生も少なく、本ぽでの農薬使用回数は1作あたり20回前後に抑えられている。

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【都道府県名】 沖縄 
【作物名】 野菜(イチゴ:よつぼし、かおりの、恋みのり、恋苺など)
【表彰技術】 亜熱帯地域における環境制御を用いた施設園芸でのイチゴ栽培

【概要】
1.農業経営の概要
(1)立地条件
 南城ハウスは、沖縄県南部、南城市の高台に位置した比較的平坦な土地で、日当たり、風当たりとも良い。気候的に亜熱帯に近く、島であり、年通して日差しは強く、ハウス内の温度は上がりやすい。また、海に囲まれていることもあり夜温は昼間からあまり下がらず、昼夜の温度差は小さい。
(2)経営規模
2,500㎡×3棟(南城ハウス)、社員3名、パート7名
1,200㎡×2棟(糸満ハウス)、社員1名、パート2名
 生産量:約30t/年
(3)技術、経営等の特色
・遮光、ミストによる昼間温度抑制、ヒートポンプによる夜温低下、炭酸ガス管理。
・飽差管理等を統合環境制御装置でコントロール 。
・沖縄に向くイチゴの品種を導入。
・高設ベンチ方式を採用しており、土壌に左右されない(沖縄南部の土壌はイチゴに不適)。
・観光農園を主体に経営。

2.農業電化技術の導入・実践の概要
(1)導入実践の経緯
・2016年から糸満市にあるハウスを借り、ヒートポンプ、遮光カーテン、ミスト等を導入して試験栽培開始。環境制御が有効であることを確認。
・2017年からはその経験を活かし、南城市により高度な環境制御が可能なハウスを建築し事業開始。同年観光農園としても開業。
(2)導入技術の新規性
・統合環境制御の導入は沖縄のイチゴ栽培では初めて。
・イチゴへのヒートポンプの導入は沖縄では初めて(夜冷の導入が初めて)。
・イチゴへのミストの導入は沖縄では初めて。
(3)導入技術の内容
・環境制御プログラムを、夜冷に対応したものへ書き換え。
    ヒートポンプのセッティングを沖縄仕様へ変更。凍結の心配がないので、10℃手前で働   くリミッターを調整して、10℃まで冷やせるようにしている。
・天窓から熱気を排気するために、天井へ向けて換気扇を設置。
・台風のときはハウスは基本締め切りで、ヒートポンプを稼働させて、内部の温度、湿度が上がりすぎない様にしている。
(4)導入技術のシステム

 ・統合制御による、天窓換気、サイド換気、遮光、ミスト、換気扇を組み合わせた温度抑制。
 ・換気と連動した、無駄の少ない炭酸ガス施用。
 ・昼間の温度抑制と夜間の温度低下管理の組み合わせ。

3.農業電化による経営・技術の改善
(1)生産性の向上
・夜温低下による、花芽分化の促進、安定。 
・温度抑制による、定植時期の前進 10月→9月へ前進。
・温度抑制による、栽培時期の延長  4月→ 5月へ延長。
(2)品質の向上
・平均温度低下による品質向上。 実の大きさのアップ 10%程度。
・昼夜温差確保による品質向上。  糖度`食味向上。
(3)農作業の効率化
・換気や遮光、灌水の自動化により、作業効率が上がった(設定変更以外の作業はほぼゼロ)。
・環境制御の自動化により、定休日が確保できる様になった(農閑期週休2日、他隔週2日)。
・自動噴霧装置により、防除の時間、負荷が大幅軽減(3h→0.5h)。
・環境制御による温度抑制で作業環境が良くなった ハウス内ピーク温度5℃〜低下。
(4)生産コストの改善
・有効微生物活用(EM、納豆菌等)による農薬代の削減。
・栽培期間延長により、ハウス収穫稼働期間が延長し、生産性が向上した。 
   収穫期間4ヶ月 → 5ヶ月へ 生産性20%向上
(5)環境保全型農業の実践
・自動動噴霧装置による、定期的な微生物や有用菌の散布により、殺菌剤の使用量低減を図り、化学殺菌剤の使用は、ほぼゼロとなっている。
・統合制御により、管理の最適化を図っている。
・燃焼系の機器は使用しておらず、全て電化で対応している。